以前も書いたが私は2年ほど前に5726大阪チタニウム5727東邦チタニウムのチタン2社を追っていた。最近の株価はすでに旬を過ぎた感があるが、近ごろのヨウ素相場などを見るともしかしたら長期的に見て仕込むのであれば今は良い時期なのかもしれないと思ったので改めて日本のチタン2社について考察してみる。正直まだ確信も低く投稿するかも迷った。個人的な見解を多く含むので間違っていたり的外れなことを書いている場合もある。
日本のチタン2社の立ち位置
まず改めて今現在世界的にチタン2社がどういった立ち位置に置かれているかについて整理したい。2022年
ウクライナ戦争勃発と同じ時期にチタン2社が注目され始めたきっかけ以下のニュースである。
米・ボーイング社 ロシアからのチタン調達停止 “露の空”孤立深まる
アメリカ旅客機大手のボーイングは、ウクライナ侵攻を受けロシアからのジェット機製造に必要なチタンの調達を停止しました。
ブルームバーグによりますと、
ボーイングは7日、
ジェット機の製造に必要なチタンについて、ロシアからの購入を停止したと明らかにしました。これまでは
製造に必要なチタンの3分の1をロシアから調達していましたが、
ボーイング幹部は「在庫が十分にあり、供給源は多様なので生産に問題はない」としています。
ボーイングはすでにロシアの航空会社に対し、部品やメンテナンスのサポートを取りやめるなど、ロシア国内での主要な事業を全て停止しています。同じく大手の
エアバスもモスクワでの操業を停止していて、ロシアの航空業界は孤立を深めています。
ウクライナ戦争をきっかけに
ボーイングがロシアとの取引を停止し
日本でスポンジチタンを生産している2社にロシアからの代替需要が生まれることとなった。
世界のスポンジチタン生産量と生産キャパシティは現在以下のようになっている。
世界のスポンジチタン生産量と生産キャパシティ(2022、2023)
スポンジメタル、スポンジが日本のチタン2社が精錬しているスポンジチタンを指す。同じスポンジチタンでも航空機向けに使用されるスポンジチタンは厳重な品質認定が要求されており、供給できるメーカーは限られている。日本のチタン2社はその限られたメーカーに数えられる。
中国のスポンジチタン生産能力は大きいがアメリカは直接輸入していない。現在アメリカは国内でスポンジチタンを生産しておらず海外からの輸入に依存しており、輸入されたスポンジチタンのほとんどが航空機向けに使用されているという。アメリカがスポンジチタンを直接輸入している国は
日本、カザフスタン、サウジアラビアに限られておりまた、サウジアラビアは東邦チタニウムが35%出資の合弁会社1社のみである。
アメリカの国別輸入割合(スポンジメタル=ほとんどが航空機に使われるスポンジチタン)
2019~2022年
2023年
2023年
アメリカが輸入したスポンジチタンの量は過去最高の42,000トン。そのうち77%が日本=32,340トンという事で昨年
日本のチタン2社が年間で生産したスポンジチタン合計60,000トンのうち約半分以上がアメリカに輸出されていることになる。また、
サウジアラビアからの輸入割合が過去4年の2%から2023年は13%に増えている。これは東邦
チタニウム35%出資である
サウジアラビア合弁会社の航空機向けの認可が下りてアメリカへの輸出が本格化したからであると思われる。補足として
ウクライナ戦争前の2021年以前もロシアからのスポンジチタンの輸入がないのは
ボーイングがロシア企業と提携しロシア国内でスポンジチタンを二次加工してから
アメリカに輸出していたから?だと考えられる。前述の通り現在
アメリカはロシアからの調達を停止している。
2018年2019年の同じデータと比較するとロシアのスポンジチタン生産量は2018、2019年の44,000トンから2023年は20,000トンまで落ちている。つまり現在推定で年間24,000トンほどロシアからの代替需要が生じている状況だと考えられる。
2018、2019年の同データ
日本の2社の生産キャパシティと増産計画
・年間生産キャパシティ
フル生産状態にあるスポンジチタン、尼崎工場に年産1万t規模の新工場を建設へ。生産能力を5万tに増強。投資規模は300億円、27年度までに決断。
・年間生産キャパシティ
航空機向けスポンジチタンは
30年に首位狙う(現3位)。若松・茅ヶ崎工場増強に加え新工場建設も検討。採算向上へチタン部門の売上高経常益率10%目標。
国内工場の生産能力は両社合わせて40,000+25,200=65,200トンで先の資料の数字と一致する。
現在フル生産を迫られる状況にあり2社とも今後の増産を計画している。具体的に決定している増産計画は2026年1月稼働開始予定の東邦
チタニウムの国内工場。大阪
チタニウムは2027年までに年間1万トンの増強を決断、東邦
チタニウムは2030年に首位を狙うと発表しているが、これらは具体的にはまだ先の計画である。
バリュエーションと考察(2024年6月14日時点)
PER |
PBR |
利回り |
信用倍率 |
14.6倍 |
2.68倍 |
1.78% |
2.07倍 |
時価総額 |
1,033億円 |
PER |
PBR |
利回り |
信用倍率 |
26.4倍 |
1.73倍 |
1.17% |
2.36倍 |
時価総額 |
977億円 |
私がメモしていた約2年前の
時価総額は大阪
チタニウムが約500億、東邦
チタニウムが約1,000億だった。現在はどちらも約1000億。振り返ってみると当時は生産キャパシティの大きさにもかかわらずコロナ影響で大きな赤字を計上していたこともあり大阪
チタニウムの株価評価が低かった。その後、大阪
チタニウムは赤字から一気に黒字回復し、国内最大の生産キャパシティによるフル操業で大幅に利益を戻してきた。
東邦
チタニウムの方は
2022年当時は金属チタン事業は赤字だったが化学品、触媒事業で順調な利益を上げていた点が評価されていた。現在は化学品、触媒事業の業績が落ちてしまい株価は2年前の水準まで落ちている。今年度の見通しも悪く化学品、触媒事業は在庫調整局面で
稼働率を抑える見通しである。金属チタン事業の方は大阪
チタニウム同様フル生産に戻ったが利益回復がイマイチである点が現在の株価評価ということなのだと思う。大阪
チタニウムと比較して国内の生産キャパシティが小さいことも影響しているかもしれない。
今後のリスク要因など
・ウクライナ戦争が終焉しボーイングがロシア企業との取引を再開する可能性
チタン2社はウクライナ戦争以前は原価を低く抑えられるロシア企業との価格競争に苦しんでいた。今のところ可能性は低いがもし今後ボーイングがロシア企業との取引を再開した場合は再び価格競争で不利になる。もし今後ロシアウクライナ情勢が大きく動けばチタン2社へのインパクトは大きいと思われる。
・ボーイングの品質問題、生産拡大停止
品質問題、内部告発、生産拡大停止など昨今ボーイングに関するネガティブニュースが目立つ。ボーイングの生産抑制はチタン2社にとっても当然ネガティブなニュースである。ネガティブニュースが続いている印象なので逆にこの状況が払拭されれば株価にはポジティブな影響。
・中国のスポンジチタンサプライヤーの台頭
米中の国際情勢的には今のところ考えづらい。ただし今後中国産の中国航空機メーカーが世界に台頭してくる可能性はある。昨年は中国初の国産旅客機C919が初の商用飛行を開始した。機体は純国産という訳ではなく同機の部品の約40%が輸入品だと報じられているが、実際の数字ははるかに上回るという専門家もいる。この機体の材料に日本のチタン2社がどれだけ関わっているかは不明だが、中国産の旅客機をきっかけに今後は中国のスポンジチタンサプライヤーが航空機向けに勢力を伸ばしていく可能性がある。
・価格転嫁の構造的な限界
「ボーイングやエアバスといった航空機メーカーは航空会社と長期の納入契約を固定価格で締結しており、サプライチェーンとして値上げが難しい構造にある」というレポートを以前読んだ。個人的にこれが以前チタン2社への投資判断を引き下げたきっかけである。しかし今後航空機の値上げ報道などが出ればポジティブか?今年もチタン2社共に値上げ交渉の報道は出ていたので値上げを通せる環境は今のところは継続中?
今後の期待と展望
チタン2社は国際情勢や世界的な資源インフレ状況に左右されるが、数年先には急激な利益回復局面があってもおかしくない。
ここ3年は毎年チタンの値上げ報道が続いている。足元の原材料高騰に関してはここ半年のチタン鉱石、コークス、
マグネシウムなどの
各種原材料、電力価格の推移などを眺めると全体的に一旦の高騰ピークはつけた可能性もあるように映る。
個人的には今は大阪
チタニウムより2年前の株価まで落ちてきた東邦
チタニウムの方に注目している。相次ぐ減益と減配予想で2年前の株価に戻り一旦目先の状況は織り込んだとも捉えられる。この先はどちらかというと悪材料よりも
好材料に反応する可能性の方が高いのではないかと思う。例えば更なる増産計画の具体化やスポンジチタン以外の事業利益回復や拡大など。また、東邦
チタニウムは、消費電力を1/4に削減する新製錬方法の開発を開示している。これは先の未来になると思うがいずれ航空機向け認定も視野に入れているとのこと。チタン製錬における電力価格の割合は大きいのでうまくいけば将来的には大幅な原価削減になる可能性がある。
当面の決算は良い数字が出る見込みはなさそうだが、これからは
足元の業績よりももっとより先の未来を見据えていくフェーズに入っていくのではないかと考えている。ロシア
ウクライナ情勢がこの先どう動いていくかは未知だししばらくは安値圏が続くのかもしれないが今後も注目していきたい。
年間損益額と現在の評価損益状況
個人的にはじわじわと苦しい状況が続きそう。他人と比較するのは良くないと思いつつも需給を乗りこなす凄腕の方々がとても羨ましく思える。自分には到底無理なのでひたすら放置を心掛けたい。のんびりのんびり気にしない気にしない・・・