1518三井松島HDと1514住石HDを、「自称・井村信者」の視点から、当時のメモとともに振り返ってみる。
とにかく、自分で読んで面白いと思うものを書きたい。その一心で書いた。AIによって個別株投資の世界が変わっていく中、書けるときに書いておこうと思い勢いで投稿する。
ただし、これは私の視点で矮小化した振り返りにすぎない。足りないピースはいくつもあると思うし、的外れなことも多々書いていると思う。井村さん本人の解説ではなく、あくまで一人の「自称・信者」による推測だという点には、強く留意してほしい。
いつか井村さんが是川銀蔵のような自伝を出し、過去の投資を存分に語ってくれることを願う。
1518 三井松島HD
投資仮説――石炭価格の高騰を、どう利益につなげるか
2022年前半当時の三井松島HDへの投資仮説を、ざっくり書くとこうなる。
脱炭素による化石燃料の開発減少に、ロシア・ウクライナ問題によるエネルギー調達の混乱が重なった。その中で、発電用の石炭である「一般炭」が希少なエネルギー資源となり、価格が急騰していた。
それなら、石炭の鉱山権益を持つ三井松島HDは、価格高騰の恩恵を大きく受けるのではないか?
当時は、こんな材料とリスクを並べて考えていた。
当時のメモ①|買い材料とリスクシナリオ(原文)
買い材料
・日銀の金融緩和継続が改めて強調
円安トレンド継続の思惑。
・欧州中心に電力危機による石炭発電再開や延長の報道が相次ぐ
石炭需要増によるリデル炭鉱延長期待。やはりリデル炭鉱延長がカタリスト。権益延長維持決定の発表で株価は一段高すると思われる。
・西側諸国でロシア産石炭撤退
欧州は石炭発電を再開延長せざるを得ない状況にも関わらずロシアからの調達を絶ち調達先が絞られてる。今後も石炭争奪戦は激化するので石炭価格は高値圏推移が続く可能性が高い。
・脱炭素の流れで化石燃料の開発投資が増やせない
電力危機の中でも脱炭素トレンドは継続しなければならない。今の構造的に脱炭素による石炭需要減<石炭供給減が圧倒する。
・日本カタンの子会社化→次世代送電網整備計画思惑
再生可能エネルギーへの移行に伴う次世代送電網整備は国策。日本カタンを始め今後もこの領域でのM&Aが期待される。エネルギー危機関連銘柄でありながら再生可能エネルギー関連銘柄という一面も。
リスクシナリオ
・リデル炭鉱延長なしの発表
今の株価がどの程度リデル炭鉱延長を前提としているか不明だが延長なしが発表された場合は短期での暴落が予測される。その場合は一旦敗走することになる。ただ延長を前提としていない経営計画を前提としている側面もあるので株価1000円とかにはならないか?
・石炭価格の急暴落
石炭価格が急落する要因として考えられるのは世界的な景気後退で資源エネルギー価格下落とロシアウクライナの停戦によるエネルギー価格下落。ただしロシア停戦が決まってもプーチン体制に屈する形での譲歩は考え辛い。停戦=ロシアから欧州へのエネルギー供給再開とはならず簡単に脱ロシアのトレンドは止まらないと見ている。ただしいつどこでシナリオ変更が起こるかはわからないので注視は続ける。
リデル炭鉱――鉱区延長は「時間の問題」だと思っていた
リデル炭鉱は、スイスの資源大手グレンコアと共同運営していた。権益の保有割合は、グレンコア67.5%、三井松島32.5%だ。
投資仮説が成立するうえでは、継続的な収益源となるリデル炭鉱の鉱区延長が認められるかどうかが、大きな焦点だったと思う。
課題の一つが、延長エリアに位置する文化的施設「ravensworth homestead」だった。鉱山側は、この施設を区域外へ移すことを提案していた。
当時、グレンコアが公開していた移転のプロモーション動画がこちら。
井村さんは、現地の記者、政治的関係者、反対団体の人物など、関連がありそうなあらゆる人物をフォローしていた。私もその後を追う形で、投資判断の材料を探していった。
海外の記事も漁ったうえで、私は「結局は経済的合理性が優先され、鉱区延長は認められるだろう」と判断していた。
当時のメモ②|石炭の供給不足と鉱区延長(原文)
・石炭の構造的な供給不足
世界的なエネルギー危機が相次ぐ中で上流開発は中止や新規受け入れ停止、融資停止など急速な石炭開発撤退が相次ぐ。構造的に一般炭の高騰は続いていくと見られるので会社見通しの数字は決して強気ではないとの見方もできる。
・リデル炭鉱の延長有無
ravensworth homestead移転問題
鉱区延長のため延長鉱区内にある植民地時代に建てられた建造物であるravensworth homesteadの石炭事業者側の移設計画に反対する地元住民の声が上がっている。そのため鉱区延長の承認プロセスに遅れが出ている。
反対派は遺産保護法の観点からも移設反対を主張。事業承認をする機関であるIPCだけではなく環境省による判断も待たれる。しかしravensworth homesteadは国の重要遺産として正式に指定されている訳ではないこと、鉱区延長の承認機関であるIPCの承認有無に関してはravensworth homestead移設の可否ではなく延長鉱区における2044年までの採掘継続性が焦点となっている。そのため移設反対派が不利な状況であり鉱区延長の承認は時間の問題ともいえる。
決算プレイ――3つのパターンを考えていた
これらを追っていたのは、2022年8月に発表される第1四半期決算の前だった。
石炭価格、貿易統計、同業他社の業績などを追いながら、決算を見据えた戦略も考えていた。今読み返すと、随分と必死に考えている。AIなしにしては上出来と自分で思ってしまった。
当時のメモ③|1Q決算の3つのシナリオ(原文)
石炭事業に関しては3ヶ月のズレがあり8月5日発表の1Qの石炭事業の数字は今年1-3月の決算数値。つまり貿易統計やGCIも1-3月の数字を目安としなければならない。これは決算説明資料にも明記されていないみたいなので知らない人が多そうな予感。1Qが今年1-3月の数字であるならば想定していたよりも大きな上昇は期待できない。石炭事業の営業利益はおそらく45億前後で上振れても50億程度か?これを踏まえた上で決算発表の3パターンと株価の動きを考えてみる。
パターン1 決算発表と共に小幅上方修正
可能性はなくはないが市場には期待外れの数字と受け取られる可能性もあり株価上昇は見込めない。株価位置によっては売られる可能性も。
パターン2 決算発表と共に通年を見越した大幅上方修正
可能性としてかなり低いと思われる。例年この会社は通年を見通しがある程度立った10月以降に上方修正を出しているので大幅上方修正するとすれば10月以降の可能性が高い。
仮にもし8月に大幅上方修正を発表したとしても1Qの進歩状況と見合わない為大きく買われない可能性もある。
パターン3 上方修正なし
一番可能性が高いパターンだと見ている。決算前の株価位置によっては大きく売られる可能性がある。
ただし今年に入って決算説明動画を初公開するなど個人投資家への対応にかなり力を入れている印象なので1Qの数字に関する投資家側も理解も得られ株価はそこまで落ちない可能性もある。
理想的な展開はパターン3で決算発表後に株価が大きく下落する展開。その場合は大幅上方修正が期待される11月の2Q決算に向けて大きく買い向かいたい。
私の1Qの決算数字の見立てが合っている場合、いずれのパターンを引いても1Q決算で株価が大きく上昇する可能性は低いとみられる。
ただしこの検証は石炭事業のみを考慮した場合なので、石炭生産事業以外のサプライズ、一般炭市況の状況やエネルギー危機のテーマが過熱することでの株価上昇はあり得る。
なのでバランスを考えて決算発表前に一旦フルゼンツは解除して焦らずに爆益確定タイミングでの買い場を待ちたいと思う。
今のポジションを決算直前まで引っ張るか、利益の乗っている今のうちに減らしてしまおうか考え中・・・
決算結果と反省――7割減らしたら、大幅上方修正
決算当日、私はひよってポジションを7割減らし、残りで決算を跨いだ。
1Q時点では修正を出してこないと踏んでいた。ところが、結果は大幅上方修正だった。

理由は、一般炭の長期契約価格の前提を、200ドルから375ドルへ大幅に変更したことだった。
これについては、事前に、リデル炭鉱の権益を分け合うグレンコアが長期契約で375ドルに合意したとの報道があった。
それなら、三井松島も今回の決算でガイダンスを変更してくることは読めたはずだろう!
当時は、そこを猛省していた。
当時の反省記事
しかし、上方修正の有無が本質ではなかった
ところが、今振り返ると、本質はそこではなかった。
実は井村さんは、この決算の発表前に、すでに保有株の大半を処分していたのである。
私がもっと注目すべきだったのは、上方修正の大きさではなく、リデル炭鉱の鉱区延長に関する決算説明資料の文言だった。
5月と8月を並べると、変化が分かる。
決算説明資料の記載|22年5月
2022年2月に1段階目の州政府環境局による審査が終了。
2段階目の州政府独立計画委員会の審査は5月中に終了の可能性がある。
その後連邦政府の審査へ移行し、2022年内には最終結果が示されることが期待される。
決算説明資料の記載|22年8月
2022年2月に1段階目の州政府環境局による審査が終了したものの、審査の判断材料となる資料(文化的施設 ・エリアに関するもの)が追加となったため、現在再審査中。
2段階目の州政府独立計画委員会の審査は当該再 審査の結果受領後、更に6週間以上かかる見込み。
5月の時点では、1段階目の審査は終わっている以上、鉱区延長は既定路線だと私は見ていた。
しかし、8月の文言は、「審査終了」から「再審査」へと変わっていた。
それでも当時の私は、「追加資料が求められたとしても、鉱区延長は既定路線。時間の問題だ」と、自分に都合よく楽観視していた。現実が見えていなかったのだと思う。
しかも、8月の決算発表前から、こうした動きを示唆する報道はあったと記憶している。
ここからは、私の勝手な推測である。
井村さんは、再審査の報道が出た時点で、鉱区延長が認められない可能性の高まりを察知していたのではないか。だから投資判断を切り替え、8月の決算前に大量処分したのではないか?
以下は、当時の大量保有報告書から見た井村さんの売買の軌跡。決算発表日は8月5日だ。

もちろん、真相は分からない。
ただ、私のようなイナゴ雑魚が目先の決算に一喜一憂している裏で、井村さんのような凄腕投資家たちは、着々と次の段階へ駒を進めていたのだろうと思わずにはいられない。
そして、その後の2022年10月28日、正式に鉱区延長が拒否されたことが発表された。
1514 住石HD
複雑すぎて、イナゴ投資すらできなかった
その後2022年12月になって大量保有報告書と共に井村さんの1514住石HDの保有が判明。住石HDについては、私はイナゴ投資ができなかった。
理由は単純で、複雑すぎて、自分の手に負えそうになかったからである。
住石HDも、三井松島と同じく石炭という共通点があった。米国の石炭大手ピーボディ・エナジーが関わるワンボのBクラス株式を子会社が保有し、配当を通じて間接的に恩恵を受ける構造である。
ただ、ここには石炭価格が高騰する前のデリバティブ契約があり、高騰後の恩恵を、いつ、どれだけ受けられるのかが複雑すぎた。私には全く見えなかった。
会社側も、配当金を受け取るまで金額がどれくらいになるか把握できない様子だったと記憶している。
井村さんの方が、会社側よりもよっぽど実態を把握していたのではないか? と、勝手に妄想している。
当時、いろいろと探していたら、ある株ブログの方が複雑な計算をしている記事を見つけた。ただ、正直なところ、私にはチンプンカンプンであった。
当時見つけた記事
本質は、大株主の買いとTOBの視点だった?
大前提として複雑な「一般炭の権益」というアルファがある。
しかし、それはあくまで一つの側面だったのかもしれない。売買の時系列を振り返ると、井村さんの投資には、麻生という大株主の買いと、TOB的な視点との合わせ技があったのではないか? と、今では推測している。
売買時系列
2022-7-28~7-29
麻生が大量保有報告提出(10.18%→18.99%)
2022-10-6~
井村さん取得開始(最終的に23年10月までに14.19%を取得)
・・・1年後
2023-11-1~11-7
井村さん、決算後に1.91%売却
↓
2023-11-7
麻生が22年7月以来の大量保有報告提出(16.94%→17.94%)
↓
2023-11-9~11-14
井村さん9.31%売却
井村さんが取得を始めたのは、麻生が大量保有報告書を提出した後。そして、売却を大きく進めたタイミングも、麻生が追加の報告書を提出した後だった。
特に2023年11月は、麻生が1年ぶりに大量保有報告書を提出した後、井村さんが大量の売却を進めている。
井村さんは、住石HDの何を見ていたのか?
この点について、Xで見かけた複数の考察が、的を射ていそうだと思った。
以下は、それらの考察と井村さんの過去の投稿をつなぎ、AIに整理・構築させたものだ。決して私が自力で思い至ったものではない。身も蓋もなく言えば、全て丸パクリである。
気になったのは、ワンボからの配当収入や株価の割安さだけでなく、次の視点だった。
「麻生にとって、住石株を買い進める経済合理性があったのではないか?」
当時の投稿には、麻生が保有比率を3分の1超まで増やす可能性を指摘し、その理由を配当の税務上の扱いと結びつけたものがあった。
さらに、将来の出口として、住石HDによる自己株式TOBも考えられるのではないか、という考察もあった。
以下は、それらをつないだ仮説になる。
麻生にとって「3分の1超」に意味がある理由
国内法人が、他の国内法人から受け取る配当には、「受取配当等の益金不算入」という制度がある。
難しい言葉だが、要するに、受け取った配当の全部または一部を、法人税を計算する際の利益に入れなくてよいというものだ。
配当を支払う会社では、すでに法人税が課されている。そのため、受け取る法人でも重ねて課税されることを調整する仕組みになる。
ここで重要なのが、保有比率だ。
| 保有比率などの区分 |
配当の扱い |
| 5%超・3分の1以下 |
原則として、配当の50%が益金不算入 |
| 3分の1超で、継続保有などの要件を満たす「関連法人株式等」 |
所定の負債利子相当額を除き、原則として配当の全額が益金不算入 |
なお、比率の判定では自己株式を除くため、単純な「発行済株式数に対する割合」と一致しない場合がある。
住石グループでは、子会社の住石マテリアルズがワンボのBクラス株式を保有し、配当を受け取っている。
その収益がグループ内で還元され、最終的に住石HDから株主へ配当されるなら、麻生としては税負担の小さい形で受け取れる方がよい。
ここで有利になるのは、あくまで「住石HDから麻生に支払われる配当」の麻生側の扱いだ。
麻生の保有比率が上がることで、ワンボから住石に入る配当の課税関係が直接変わる、という意味ではない。
こう考えると、すでに相当数の住石株を持つ麻生には、3分の1超まで買い進める誘因があったのではないか、という見方ができる。
フージャースの自己株式TOBに、もう一つのヒントがある
この話を考えるうえで面白かったのが、2021年のフージャースHDの自己株式TOBについての投稿だ。
村上系ファンドの応募について、表面上の売買差益ではなく、**「みなし配当の益金不算入と、株式の譲渡損失を組み合わせた税効果」**に注目した考察があった。
まず、自己株式TOBとは、発行会社自身が、株主から自社株を買い戻す取引のことだ。
通常の市場売却なら、基本的には「売った価格-買った価格」で利益を考える。
しかし、自己株式TOBでは、受け取った代金の一部が、税務上は株式の売却代金ではなく、会社からの利益分配である「みなし配当」として扱われることがある。残りの金額を使って、株式の譲渡損益を計算する。
当時の投稿では、平均取得単価を約605円とし、TOB価格684円の内訳を次のように推計していた。
| 1株当たりの項目 |
金額 |
| 株を買った金額 |
605円 |
| TOBで受け取る金額 |
684円 |
| うち、みなし配当として扱われる部分 |
405円 |
| うち、株式の譲渡対価として扱われる部分 |
279円 |
現金の出入りだけなら、計算は単純だ。
684円-605円=79円の利益。
ところが、税務上の株式売却の損益は、684円ではなく、みなし配当を除いた279円を使う。
279円-605円=326円の譲渡損失。
ここが直感に反する。
実際には79円儲かっているのに、税務上は、「405円の配当」と「326円の売却損」が同時に生じる。
もちろん、現金を326円失ったわけではない。405円の配当と279円の売却代金を合わせて、684円を受け取っている。
405円-326円=79円なので、全体の利益そのものは変わっていない。
また、この内訳を投資家が自由に決められるわけでもない。みなし配当の金額は、発行会社の税務上の「資本金等の額」などに基づいて計算される。
なぜ「現金では利益、税務上は損失」が有利なのか
配当にも普通に課税されるなら、「405円の配当-326円の売却損=79円の利益」で終わる。
しかし、405円の配当を課税対象から外せる一方、326円の譲渡損失を他の課税所得から差し引けるなら、話が変わる。
当時の投稿の推計を億円単位で丸めると、次のような構造になる。
| 項目 |
概算 |
| 投資に使ったお金 |
130億円 |
| 自己株式TOBで受け取るお金 |
147億円 |
| うち、みなし配当 |
87億円 |
| うち、税務上の株式譲渡対価 |
60億円 |
| 税務上の譲渡損益 |
60億円-130億円=70億円の損失 |
| 現金ベースの投資利益 |
147億円-130億円=17億円の利益 |
ここからは、仕組みを理解するための単純化した計算になる。
みなし配当が全額益金不算入になり、譲渡損失を全額利用でき、税率は30%と仮定する。負債利子などの調整も省略している。当時のファンド各法人の実際の申告内容や節税額を確認したものではない。
例えば、この取引をする法人に、別の事業や投資から100億円の課税対象利益があったとする。
この取引がなければ、税金はこうなる。
100億円×30%=30億円。
ところが、自己株式TOBで生じた70億円の譲渡損失を差し引けるなら、課税対象の利益は、
100億円-70億円=30億円。
したがって、税金は、
30億円×30%=9億円。
別の利益にかかる税金を、30億円から9億円へ、21億円減らせる計算になる。
その一方で、この投資自体では、130億円を払って147億円を受け取り、現金で17億円儲かっている。
つまり、この仮定では、
現金の投資利益17億円+税負担の軽減21億円=38億円
という税引後の経済的な効果になる。
単純な株式売却として17億円の利益に30%課税されるなら、税引後利益は11.9億円だ。同じ17億円の値上がり益に見えても、税金まで含めた採算は大きく違う。
「70億円の損失を出して、70億円の税金を取り戻す」という話ではない。
現金では損をしていないのに、税務上生じる70億円の損失を使い、その30%に当たる21億円の税負担を減らせるという話だ。
なるほど。これなら、大口法人が市場価格より安い自己株式TOBに応じる理由も分かる。受取価格が多少低くても、税引後の手取りでは有利になる場合がある。
井村さんは、この発想に触れていた
興味深いのは、このフージャースの考察に、井村さん自身が2021年にXで返信していたことだ。
「みなし配当の益金不算入を活用し、税効果を狙っているという発想は思いも付きませんでしたので、大変勉強になりました。」
少なくとも、この時点で井村さんは、大口法人投資家の行動を理解するには、表面上の売買差益だけでなく、税引後の採算を見る必要があるという視点に触れていた。
その後の住石HD投資でも、この発想を応用していた可能性はないだろうか。
麻生が3分の1超まで買い進めれば、条件次第で住石HDから受け取る配当の扱いが有利になる。さらに、将来の投資資金の回収方法として、住石HDによる自己株式TOBも選択肢になり得る。
ここは混同しやすいが、「麻生が住石株をTOBで買う」のとは逆だ。
住石HDがお金を出し、麻生の持つ住石株を買い戻すという構想になる。
もちろん、自己株式TOBは確約された出口ではない。会社側の判断や資金、手続きなどが必要であり、麻生が実際にその計画を持っていたことも確認できない。
それでも、保有中の配当と将来の回収方法の両方に税務上の利点があるなら、麻生にとっての住石株の価値は、一般の個人投資家が見る価値とは違っていた可能性がある。
ファンダだけでなく、「相手が買う理由」を読む
ここまで見てきた益金不算入は、法人向けの制度だ。
つまり、この仮説は、井村さん自身が同じ方法で節税するという話ではない。
「税引後で考えると買い進める理由がある大口法人」の存在を読み、その買い需要や資本政策の変化を先回りするという視点だ。
実際、その後の麻生は3分の1超にとどまらず、2024年5月17日付で議決権所有割合50.01%となり、住石HDの親会社になった。
ただし、この結果だけで、買い増しの目的が税効果だったと断定することはできない。井村さんの本当の購入理由も、今回の材料だけでは分からない。足りないピースは、まだいくつもあると思う。
個人的には、こうしたTOB的な視点や投資スタイルは難易度があまりにも高く、自分で手を出す気にはなれない。
それでも、会社の業績や割安さだけでなく、「相手には、なぜ買う理由があるのか」まで考えるという視点は、人によっては大きな学びになる話だと思う。